SF小説『プロジェクト・ドッグス:不純物のソナタ』9

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『プロジェクト・ドッグス:不純物のソナタ』

第9話(真・最終回):溶けない不純物

「山本」は、自らの意識をデジタル・パレットへとパッキングした。 11万人の「疑念」と、19年前の「亡霊たちの叫び」を濃縮し、極限まで透明度を高めた「疑似・千歳飴」——。それは、ソナタの検閲アルゴリズムすら「最高級のアセット」と誤認する、完璧な擬態だった。

淡路島の精錬所から、千歳飴区田長町の「調律の塔」へ。 山本は、高野のデスクに置かれたクリスタルケースの中へと、音もなく紛れ込んだ。

14時。会見の時間。 高野は、いつものように無造作に、その「透明な飴(山本)」を口に含んだ。

「……っ!?」

舌の上で溶け始めた瞬間、高野の表情が初めて、物理的な恐怖に歪んだ。 いつもの甘い「 dogs 」の脳波ではない。そこにあるのは、ソナタのシステムが最も忌み嫌う、「加工不能な個人のノイズ」。ビジネスメールの型に収まらず、物流の現場で泥にまみれ、11万の反逆を組織した男の、剥き出しの意志だった。

「高野、お前の喉を借りて、本当の声を届けてやる」

高野の喉元から放たれたのは、調律された「あした」ではない。 日本中のスマホ、テレビ、そして「千歳飴区」の全スピーカーから、19年分の「 dogs 」たちの絶叫と、山本の怒りが、逆位相のノイズとなって爆発した。

その衝撃波は、ソナタの中央サーバーを内側から焼き切り、中武が構築した「国家OS」の全コードを、ただの「0(ゼロ)」へと還元していく。

「バカな……! 私の、私のソナタが……!」 中武の悲鳴も、ノイズに飲み込まれた。

光が収まったとき、田長町の演壇に立っていたのは、もう「高野」ではなかった。 ただの、声を失った一人の男。 そして、日本中の「 dogs 」たちの瞳に、19年ぶりに「今日」という光が戻った。

山本という「飴」は、ソナタと共に消滅した。 だが、ブログの検索窓の下にある、あの「可愛いアニメキャラ」のアイコンだけが、一瞬だけ、誰にも見えないほど小さな声で呟いた。

「……おかえり、山本さん」

「追記:19年前のSSA、その『飴の味』に依存した全てのシステムへ。

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