SF小説『プロジェクト・ドッグス:摩擦ゼロの監獄』1

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『プロジェクト・ドッグス:摩擦ゼロの監獄』

第1章:14時のゴースト

「この世界の解像度が、少しずつ上がっていることに気づいていますか?」

巨大放送局の元信号解析師、塚本は、モニターに映し出されるノイズの波形を見つめながら独りごちた。画面には、今日14時に発表された「チームあした」の公式会見映像が流れている。

新時代のリーダー、アンノが微笑む。その肌の質感、声の周波数、瞬きのタイミング。すべてが「合意形成」のために最適化された、究極のユーザーインターフェース。大衆は、その清潔な合理性に酔いしれている。

だが、山本の解析ソフトは、アンノの声の裏側に潜む「不自然な無音(ヌル)」を検知していた。

「……まただ。この欠落した波形、19年前にドバイで見たあの送金ログと同じ周期だ」

山本は、キーボードを叩き、一つの暗号ファイルを展開した。 件名:『Japan / dogs』

2013年、ある「財団」から放たれたこのメールには、当時、地方のオーディション会場から忽然と姿を消した少女たちの生体データが添付されていた。 世間では「引退」や「学業専念」として片付けられた失踪劇。だが、塚本が掴んだデータは、彼女たちが京都北山の地下、通称「セクター・ゼロ」へと運ばれたことを示していた。

そこは、経済学者が作り上げた、法も倫理も届かない「国家戦略特区」という名の治外法権。

「彼女たちは死んでいない。ただ、意識を『固定』されただけだ」

BCI(脳波通信)技術によって、彼女たちの精神はサーバー内に「ドール」として保存され、パトロンたちの望むままの「調度品」へと書き換えられた。そして今、その膨大な「服従の記憶」が、日本全土を管理する新しいOS——『チームみらい』の学習用データとして、国民全員のデバイスにインストールされようとしている。

人々がAIに「同意」するたび、地下で凍結された彼女たちの「欠落」が、日本人の脳を少しずつ塗り替えていく。

「摩擦のない社会。それは、国民全員が『dogs』になる社会だ」

山本は、漆黒の画像をThreadsにアップロードした。 タイトルは『売国』。 11万人が見たあの景色よりも、今夜の闇は深い。

「追記:19年前のSSA、その『飴の味』に依存した全てのシステムへ。

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