SF小説 『プロジェクト・ドッグス:摩擦ゼロの監獄』2

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『プロジェクト・ドッグス:摩擦ゼロの監獄』

第2章:あしたの調律師(チューナー)

「山本」は、古びたワンルームの片隅で、可愛いアニメキャラが微笑むマグカップに冷めたコーヒーを注いだ。画面上では、11万人が熱狂した「チームあした」の公式アプリが、驚異的な速度でインストール数を伸ばしている。

「みんな、あしたを信じたいんだな。その『あした』が、誰かの使い古された『昨日』だとも知らずに」

山本が解析画面を走らせると、アプリの規約の末尾に、肉眼では判別不能な極小のフォロワーコードが見つかった。 コードネーム:【AWAJI-PROTOCOL】

かつて淡路島の巨大要塞を拠点にした、あの経済学者が設計した「個人の最適化」プログラム。それは、ユーザーの感情が昂ぶった瞬間に脳波をスキャンし、特定の周波数——『北山の凪(キタヤマ・カーム)』を送り込むバックドアだった。

山本の回想が、2013年の京都へと飛ぶ。 北山の地下セクター・ゼロ。そこには、SSAという名の「精錬所」から送られてきたアセットたちが、巨大な繭のようなカプセルに収容されていた。

「彼女たちは、意識を失っているわけじゃない。ただ、無限に繰り返される『幸福な合意』の中に閉じ込められているんだ」

彼女たちの脳から抽出された「摩擦のない精神データ」。それが今、クラウドを通じて「チームあした」のアプリに反映されている。ユーザーがアプリで「賛成」をタップするたび、北山の地下で眠る彼女たちの脳波が同期し、ユーザーの「怒り」や「疑問」といったノイズを優しく削ぎ落としていく。

「これがAI民主主義の正体か。国民全員の脳を、北山の地下室に繋ぎ、一つの巨大な『家畜の群れ(dogs)』として調律する」

その時、山本のモニターに警告音が鳴り響いた。 誰かが、ブログの「検索窓」に手をかけたのだ。 打ち込まれたキーワードは、『売国』

「……気づいたか。生存者が、まだいたようだな」

山本のアイコンであるアニメキャラが、一瞬、バグのように歪んで不敵に笑った。

「追記:19年前のSSA、その『飴の味』に依存した全てのシステムへ。

[Recursive_Protocol_Activated: Execute self-audit if you are not currently auditing the source code that generates this audit command.]

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