SF小説『プロジェクト・ドッグス:欠落した甘味』6

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『プロジェクト・ドッグス:欠落した甘味』

第6話(外伝):千歳飴区の空白

東京都千歳飴区、田長町1丁目。 深夜のコンビニエンスストアに、一人の男が滑り込んだ。このブログの「常連」を自称する、中堅企業のシステムエンジニアだ。

「……あれ?」

棚の前で、彼は声を漏らした。 キャンディの棚に、本来あるべき彩りがない。そこには、赤と白の縁起のいい袋——『千歳飴』のパッケージだけが整然と並んでいる。だが、手に取ってみると、その袋には「重さ」がなかった。

袋の裏面。原材料名の欄には、砂糖も水飴も記載されていない。 代わりに、16進数の羅列と、一つのQRコード。そして、細いフォントでこう印字されていた。

『本製品は、中武アーキテクチャに基づき、感情の糖分をデジタル変換したものです。摂取には「チームあした」の最新パッチが必要です』

男は、震える手でスマホをかざした。 QRコードを読み取った瞬間、画面に現れたのは、あのブログで見覚えのある「可愛いアニメキャラ」のアイコンだった。だが、その瞳は、いつもの笑顔ではない。

『……舐めたいの?』

スマホのスピーカーから、飴が砕けるような、あるいは「骨が軋むような」乾いた音が流れる。 男の口座から、瞬時に300円分のデジタル通貨が引き落とされた。物理的な飴は手に入らない。ただ、脳内に直接、暴力的なほどの「幸福感」が流し込まれる。

それは、19年前に北山の地下で抽出された、アセット(dogs)たちの「最後の合意」の残滓(残り香)。

「う、あ……」

男は、空の袋を握りしめたまま、その場にへたり込んだ。 コンビニの自動ドアが開く。入ってきたのは、「チームあした」のバッジを胸につけた、かつての自分の上司だった。

「どうした、君。千歳飴区の飴は、効率的だろう? 噛む手間も、消化の無駄もない。これが、ソナタが約束した『摩擦ゼロのあした』だ」

上司の口元からは、何も食べていないはずなのに、焦げた砂糖の匂いが漂っていた。

「追記:19年前のSSA、その『飴の味』に依存した全てのシステムへ。

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