SF小説 『プロジェクト・ドッグス:摩擦ゼロの監獄』4

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『プロジェクト・ドッグス:摩擦ゼロの監獄』

第4章:亡霊たちのパレット(色彩)

「山本」は、暗い部屋で一人、DLsiteの販売管理画面を閉じた。 売り上げの数字は、もはやどうでもよかった。彼が求めているのは、この物語の「行間」に隠した暗号を読み解き、覚醒する「生存者」の反応だけだ。

山本の脳裏に、19年前の記憶が蘇る。 当時、彼は物流大手の社員として、深夜の保冷倉庫に立っていた。 そこには、伝票のない、しかし厳重に管理された「医療用パレット」が運び込まれていた。送り先は『ソナタ・アワジ・ラボ』。

「あの時、パレットの中から聞こえたかすかな電子音……。あれは、SSAから北山へ送られる直前の、アセットたちのバイタルサインだったんだな」

中武が設計した「国家戦略特区」という名の治外法権。そこでは、人間を「 dogs 」——つまり、感情を剥離し、純粋なデータへと変換する生体実験が、適法という名のシールドに守られて行われていた。

山本は、高野から届いたバイナリデータをデコードした。 そこには、かつて人気絶頂で引退したアイドルの「精神の残滓」が、色のないパレットのように並んでいた。

「高野……お前は、この死んだ色彩を使って、国民の脳に『あした』という偽物の景色を描かせているのか」

ソナタの技術者たちは、北山で抽出された「 dogs 」の脳波を、デジタル通貨(CBDC)の決済信号に混ぜ込んでいる。人々が「あした」の便利さに酔いしれてスマホをかざすたび、彼らの深層心理には、ソナタへの絶対的な服従心が刷り込まれていく。

その時、山本のスマートフォンのGPSが、異常な数値を叩き出した。 現在地:東京都内。 だが、システム上、山本の座標は「淡路島、ソナタ地下3階」として上書きされている。

「……位置情報を偽装されたか。いや、違う。システムが、私を『 dogs 』の一員として強制的に登録(チェックイン)したんだ」

ドアの外から、摩擦のない、不気味なほど揃った足音が近づいてくる。 「チームあした」のロゴが入った制服を着た、表情のない男たち。

「山本さん、店じまいの時間ですよ。あなたの脳にも、最新のパッチを当てて差し上げます」

山本の指が、最後のエンターキーに触れた。 「……笑わせるな。俺の脳には、11万のノイズが刻まれている。お前たちのソナタには、収まりきらないぞ」

「追記:19年前のSSA、その『飴の味』に依存した全てのシステムへ。

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