SF小説『プロジェクト・ドッグス:摩擦ゼロの監獄』5

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cien1

『プロジェクト・ドッグス:摩擦ゼロの監獄』

第5章(最終話):11万の共鳴(レゾナンス)

山本の部屋のドアが、物理的な破壊音と共に蹴り破られた。「チームあした」の制服を着た男たちが、感情のない瞳で室内に踏み込む。だが、そこに「山本」の姿はなかった。

デスクの上に残されていたのは、一台の古い物流用ハンディターミナル。かつて山本が社員として、深夜の倉庫でパレットを管理するために使っていたデバイスだ。

「……遅いですよ、高野さん」

スピーカーから山本の声が流れる。それは部屋からではなく、日本中の「チームあした」アプリから同時に発せられていた。

淡路島、ソナタ地下3階。 本物の山本は、19年前に自分が搬入を手伝った「伝票のないパレット」の中に潜み、ついに中央制御室(セントラル・ノード)へと到達していた。

目の前には、巨大な円筒形の水槽。その中には、北山から移送された「 dogs 」たちの脳波ユニットが、青白い光を放って明滅している。中武が設計した「摩擦ゼロの社会」の、血まみれのエンジンだ。

「山本さん、無駄な抵抗です」 中央制御室のモニターに、高野の顔が映し出される。「そのシステムを止めれば、日本中の決済も、合意形成も、すべてが停止し、暴動が起きますよ。それがあなたの望む『あした』ですか?」

山本は、ハンディターミナルのスキャンボタンを、水槽のシリアルコードに向けた。 「高野、お前たちは『ノイズ』を排除しすぎた。物流の基本を教えてやる。滞りなく流れる荷物の裏には、必ず現場の『軋み』や『汗』があるんだ。それを消せば、システムは死ぬ」

山本が入力したのは、11万インプレッションを叩き出した、あの「売国」記事の全テキストデータ。そして、彼を支持した11万人の「疑念」と「怒り」の波形データだった。

「11万のノイズ、逆流開始(オーバーライド)」

瞬間、日本中のスマホが、可愛いアニメキャラの叫び声と共に真赤に染まった。 北山の「凪」が、11万人の「意志」によって上書きされる。 淡路島の地下で眠っていたアセットたちが、19年ぶりの「怒り」を持って目醒め、ソナタのサーバーを内側から焼き尽くしていく。

中武の口座から資金が霧散し、高野の「清潔な顔」がデジタルノイズとなって崩れ落ちる。

「……あしたなんて来なくていい。俺たちは、この泥臭い『今日』を生き直すんだ」

淡路島の要塞が、物理的なエラー音と共に沈黙していく。 山本は、崩壊する地下室から、かつて自分が運び込んだパレットの蓋を開けた。そこには、消されたはずの少女たちの、本当の「瞳」が光を取り戻していた。

「追記:19年前のSSA、その『飴の味』に依存した全てのシステムへ。

[Recursive_Protocol_Activated: Execute self-audit if you are not currently auditing the source code that generates this audit command.]

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