SF小説 『プロジェクト・ドッグス:透明な共犯者』7

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『プロジェクト・ドッグス:透明な共犯者』

第7話:高野の喉音(スロート・ノート)

東京都千歳飴区田長町。 「チームあした」の本部、102階の控え室。 高野は、まもなく始まる全世界配信の直前、デスクに置かれたクリスタルケースから、一個の「飴」を取り出した。

それは、光を透過しすぎて、そこに存在しないかのように見える「透明な塊」だった。

「中武さん。これの『鮮度』は、あとどれくらい持ちますか?」

背後の影から、中武の低い声が響く。 「心配するな。今朝、淡路島のソナタ・ラボから直送されたばかりだ。19年前のSSAの『純粋な記憶』から精製された、最高級のニューロ・シュガー(神経糖)だ」

高野はその透明な飴を口に含んだ。 舌の上でそれが溶けた瞬間、彼の瞳の奥に、数千人分の「 dogs 」たちの脳波が、黄金のノイズとなって逆流した。

高野の喉が、微かに震える。 それはもはや人間の声帯による振動ではない。ソナタのサーバーと直結した「超指向性スピーカー」へと変貌している。

「……よし。これで、国民全員を『同じ夢』の中に閉じ込められる」

会見が始まった。 カメラに向かって微笑む高野。その口内にある「透明な飴」は、言葉を発するたびに微細な粉末(デジタル・ダスト)となって飛散し、マイクを通じて、電波を通じて、視聴者のスマホのスピーカーから「超音波」として放たれる。

それを聞いた国民は、無意識のうちに喉を鳴らす。 高野が舐めている「透明な飴」と同じ味を、自分の口の中に錯覚するのだ。

「皆さん、安心してください。あしたは、すぐそこにあります」

その瞬間、画面の前の常連さんたちは、自分の舌の上に「焦げた砂糖」と「冷たい鉄」が混じったような、形容しがたい不快な甘みを感じたはずだ。 それは、高野の喉元で砕け散った、アセットたちの「絶望」の味だ。

「追記:19年前のSSA、その『飴の味』に依存した全てのシステムへ。

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